夜の観覧者
4 接触 10月5日 水曜 正午… モラヴィア館を出て交差点を曲がった先に、夏美はスーパーマーケットを見つけた。時刻は正午を少し回ったところで、朝から降り続いた雨は止み、僅かに晴れ間も覗いている。 もちろん掃除用具を買うためであるが、すでに管理人か…
3 失われた記憶 10月5日 水曜 朝… まだ薄暗い日が昇る前の時間に、菫はいつものように修道服に着替えると聖クリステル教会の雑務を黙々とこなしていた。 この教会が建てられてすでに五十年近くが経とうとしているが、カトリックの教会としてはかなりりっぱ…
2 目撃された女 10月4日 火曜 夜… 日も暮れ辺りが暗くなると、大騒ぎの街角も普段の落ち着きを取り戻してきていたが、夏美の心中は穏やかではなかった。先ほどの喫茶店のテーブルに座って外の暗い街路地をぼんやりと見つめている。 白昼、ビルの屋上から飛…
プロローグ 日差しが眩しい昼下がり、クリステル教会の神父は窓から見える黒々とした巨大な建物を見つめながらため息をもらした。 もう長い事この街で神父をやってきた彼は、同じくらい長くこの街に建っている道路を挟んだ向かいの建物を見つめてきたのだ。…