ザ・怪奇ブログ

怪奇小説・絵画・怪奇の世界!

水面の彼方に

水面の彼方に 31話

31 丘の秘密と三つの事件 完全に闇に包まれた緑川町を、足早に進む影があった。もちろん博士たちだが、目的地の丘へは全員では向かわず僅か数名のみで、という事になったのである。 それには理由があったが、ここでも異議を唱えたのは刑事の涼子だった。か…

水面の彼方に 30話 

30 水面から 地下基地のさらに下、目的の最深部に向かった白石の部隊から連絡が入ったのはそれから一時間も後の事だった。”動力室”と呼ばれる場所に兵士たちがようやく辿り着いたのである。 送られてきた映像は先ほどのものよりも悪く、時折ノイズのような…

水面の彼方に 29話

29 運命の捜査会議 午後十九時を過ぎた頃、光らが待つペンションに博士と秘書は戻ってきた。この辺りにも家はちらほらと点在しているが、住む人もいないのか明かりが点いている家は殆んど無い。 町の中心部からかなり外れた斜面の上にあるこの古いペンショ…

水面の彼方に 28話

さかのぼる事二日前、元捜査一課の利根川警部は部下の村山涼子に連絡を入れたあと、休暇を利用して十二時発の新幹線、やまびこ137号で栃木県宇都宮へと向かっていた。 先日東京の河川敷で、皮だけになった女性と思われる水死体が発見された奇妙な事件現場…

水面の彼方に 27話

27 過去へと続く未来… 夕日が山の影に隠れはじめた頃、ペンションの二階、光は部屋の窓から徐々に闇に包まれてゆく街の様子を眺めていた。街の情報を仕入れに行った博士と秘書の二人は今だ戻ってきていない。 下の階からは元気な様子で掃除を続けている真…

水面の彼方に 26話

26 全てに至る場所へ… 一昨日の騒ぎがまるで嘘のように静かな聖パウロ芸術大学のテラスで、千恵子は眼下に広がる美しい森を眺めていた。周囲数キロに亘り誰一人住む者もない深い森の奥、現在この大学に残っているのは理事長の執事である白川と千恵子本人だ…

水面の彼方に 25話

25 静寂の街で 資料館の中は、もう何年も前から時が止まったままの状態に見えた。入り口付近に貼ってあるポスターもかなり古いもので、1992年と書かれてある。おそらく、その頃からすでにこの資料館を利用する者は少なかったのだろう。薄暗い玄関先に…

水面の彼方に 24話

24 奇妙なメッセージ 少し前の時間、京都市内にある老舗の料亭にて深夜秘密の会合が開かれていた。一見すると、外国の旅行者とそれをもてなすための御一行であったが、実はとんでもない大物たちの会合だったのである。 そのメンバーは多国籍に亘り、中には…

水面の彼方に 22・23話

22 トンネルでの来客… いろは坂を下り、日光市街地へと入った博士らのワゴンは郊外にあるスーパーの駐車場に停車した。軍服男の襲撃以降ここまで何の問題も無く峠を越えてきていたが、もちろん油断は出来ない状況である事には変わりなく、広い駐車場の奥、…

水面の彼方に 21話

21 いろは坂の追走… ほんの数秒にも満たない僅かの時間、トイレの個室は激しい銃撃による破壊と閃光に包まれた。これでもかと撃ち続けた機関銃の弾が切れ、もうもうと立ち込める土煙の中、軍服姿の男は無言で機関銃のカートリッジを素早く交換する。 弾を…

水面の彼方に 20話

20 女性用化粧室の悪夢 レストランを出た秘書や須永理事長らが、向かいにある洋服屋でお気に入りの服を選んでいる同じ頃、その行方を追っている江田はつい先ほどまで彼らが食事を取っていた洋風レストランでコーヒーを飲んでいた。 江田にとって仕事前のブ…

水面の彼方に 19話

19 湖畔で待つ者 145号線に入り沼田市を通過している博士らのワゴンは、ここまで何の邪魔も無く軽快にロマンチック街道を走っていた。 市街地を抜け山へと入ると、美しい景色と急カーブの連続だが少し遅い昼食を取るため、車は「吹割の滝」へと向かった…

水面の彼方に 18話

18 ロマンチック街道 智佳子が最寄りの駅へとやって来たのは、その日のお昼近くの事だった。旅とはいえ荷物はそう多くは持たずに家を出たのだが、背中には背負いバックと折畳用の傘、そして頭にはお気に入りのつば広状のハットを目深にかぶっている。 この…

水面の彼方に 17話

17 国道145号線へ 空がうっすらと明るくなってきた頃、人一人がやっと歩けるくらいのけもの道の眼前に、遊歩道のような砂利道が見えてきた。とはいえ、めったに人が踏み込むような森ではないので辺りには民家も人の姿もなかった。けもの道を抜けたとは…

水面の彼方に 16話

16 魔女の森 まだ数時間は朝日を拝むことのない深夜、深い森の中に動く影があった。それは聖パウロ芸術大学と市街地を結ぶ砂利道の草むらに、潜むようにうずくまる数人の人影である。 約三キロ近い一本道のほぼ中間地点に待機している謎の武装集団たちは、…

水面の彼方に 15話

15 深夜の誓い 建設されてから半世紀近くは経つであろう地下の廃坑道へと博士らが降りたのはすでに日をまたいだ後だったが、幸いにも武装した謎の集団が学園内へと乗り込んで来るということはなかった。 それというのも、捕えた襲撃者の説明によれば軍隊と…

水面の彼方に 14話

14 作戦行動前夜2 その夜、南条家の広い屋敷の客間で智佳子は退屈な時間を過ごしていた。月に数回は行われる会合が、今晩はこの南条家で行われているのであるが、会合というのは名目で、いわゆる西洋風にいうなら上流階級の社交界パーティである。 主に名…

水面の彼方に 13話

13 作戦行動前夜… その夜遅く自分の研究室に籠っていた杏は、地下基地内の様子がいつもとは少しだけ違っている気がして部屋の外を覗き見た。時刻は二十二時を回っていて、普段はこの時刻になると基地内はいたって静かなものだが、今晩は大勢の兵たちが動き…

水面の彼方に 第12話

12 レンジャー対オルゴン 午後二十二時を過ぎた頃、秘書ら四人の女性たちは須永理事長の自慢のテルマエ、大浴場を満喫していた。これ以降の時間には誰もこの大浴場を使う者はいないので貸し切り状態であり、普段はこの時間以降にこのテルマエを利用するの…

水面の彼方に 11話

11 送り主の正体と侵入者 夕食時間が過ぎ、ほとんどの寮生たちが食堂を出ていった頃、広い大ホールの一番奥のテーブルで食事を取りつつ、博士らは先ほど突然秘書が言い放った”茶封筒の送り主の正体”について語り合っていた。 初めてこの大学へとやって来た…

水面の彼方に 第10話

10 二つの変死事件 深い森の奥に建つその白い洋館を下から見上げた涼子は、およそ芸術大学とは思えないその雰囲気に少々身震いを覚えた。不気味なほど辺りは沈黙に包まれていて、聞こえて来るのは気味の悪い鳥か何かの鳴き声だけである。 だが、彼女が動揺…

水面の彼方に 9話

9 聖パウロ芸術大学へ… 食品加工会社の広い駐車場には日曜という事もあり、二台ほどの車しか停めていなかったが、杏は会社の入口を通りすぎると誰もいないロビーを抜け自分の仕事場へと向かう。彼女の食品開発室は一階の一番奥にある。 この会社は三年前に…

水面の彼方に 8話

8 茶封筒の謎 雨音が庭の砂利にぽつぽつとあたり始めた頃、智佳子はにわかに湧き始めた黒雲に視線を向けながら眉をしかめた。このところ、こうした急激な天候不順による家屋の傷みが激しく、修繕などの費用にも頭を痛める事が多くなってきている現状に智佳…

水面の彼方に 7話

7 朝の動揺 その日の深夜遅く基地司令官の藤原弘毅は、今だに昨夜部隊を壊滅させたと思われる謎の二人組みについて調べていた。今朝あの一枚の写真を見てから、かれこれ十時間は経過している。 彼らについての情報は今のところたった一枚の写真のみだったが…

水面の彼方に 6話

6 エラの神話 その夜、稲本光が空港に降り立ったのは午後二十時を少し回ったところだったが、ターミナルへと向かう人の数はそう多くはなかった。 インドネシアからの便に乗っていたのは数人の現地人観光客と、主に日本帰りのサラリーマン一行だった。長いエ…

水面の彼方に 5話

5 Cure 夕方近くになり、走るタクシーの中から暮れゆく太陽を見つめる博士と秘書は、深い森の合間に懐かしい建物が見えてきた事にほっとして表情が緩んだ。 先ほどまでいたコンビニのある街から移動すること三時間。目的地までは、いつ何者かが自分達を追…

水面の彼方に 4話

4 想定外の出来事 緑川町から離れること数キロの地点、深い山間の中にその施設はあった。入口は分かりずらい作りになっていて、そこへ向かう道路もまるで無く、空からはそこに何かの施設があるなどとは夢にも思わないだろう。 だが、良く見れば木々や岩に隠…

水面の彼方に 3話

3 奇妙な死体 新米刑事の村山涼子と利根川警部の二人が、東京のある河川敷へとやって来た頃、ようやく日が昇り始めた。 辺りはまだ薄暗く、背の高い草が生い茂り、数日前の雨によりあちらこちらに水たまりが出来ている。それもその筈、激しい雨による増水は…

水面の彼方に 2話

2 暗視カメラに踊る影 突如として家の明かりが消えた事に、博士は自分が浅はかだったと知り、窓の外をちらりと覗いた。誰かが家の電源を落としたのだ。 暗がりの中、玄関先に停めてある配達用トラックの荷台から素早く降りてくる人影が見える。一、二、三、…

水面の彼方に 1話

プロローグ 夕闇が近ずく日暮れ時、食品加工会社に勤める入江杏は、勤務時間終了とともに従業員用の女性専用着替え室で着替えを済ませていた。ほどなくすれば、ここに大勢の女性従業員がやって来るが、そのほとんどはパートである。彼らがやって来る前にここ…