ザ・怪奇ブログ

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水面の彼方に 21話

 

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            21  いろは坂の追走…  


 ほんの数秒にも満たない僅かの時間、トイレの個室は激しい銃撃による破壊と
閃光に包まれた。これでもかと撃ち続けた機関銃の弾が切れ、もうもうと立ち込め
る土煙の中、軍服姿の男は無言で機関銃のカートリッジを素早く交換する。

 弾を詰め替えた機関銃を構え、トイレの個室の煙が晴れるのを軍服姿の男は静か
に待つ。これだけ大量に弾を撃ち込んだのである、中に人がいたならどう間違って
も生きてはいない…。

 一瞬の嵐の後、再び薄暗いトイレの中は静寂に包まれる。
土煙が晴れてくると、軍服姿の男は銃を構え破壊された個室に足を踏み入れ中を
覗く。

 だが、それは男が予測していた状況ではなかった。

 個室には二人の女の姿は無く、ただ破壊されたコンクリやパイプが散乱している
だけで、人の痕跡はまったく見られなかった。さらに言えば、この個室で気を失っ
ていた筈の江田という男の姿も無い…。

 それが何を意味するのか?軍服姿の男は瞬時に理解した。

 僅かな時間とはいえ、二人がいない個室を撃ちまくっていた自分には数秒の遅れ
があるという事を。その遅れとは、女二人がこちらに反撃するための時間である…


 軍服姿の男が気がついた時にはもう遅かった。
いきなり自分の背後から、後頭部に強烈な打撃が入ったのである。その衝撃で軍服
姿の男は機関銃を床に落としてしまった。

 ふらつく男の横を素早く通り過ぎ、秘書は床に落ちた機関銃を蹴りつけトイレの
奥へと押しやる。

 間髪入れずに、今度は光がトイレの個室の仕切り板の上から軍服姿の男にダイブ
すると、自分の股間を男の顔面に押し付けるようにしながら勢いよくトイレの床に
後頭部から叩きつけた。いわゆる尻で顔面を押し潰したような形である。

 

 

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 光の全体重をお尻にかけ、パンツがずれるほど強烈に床に叩きつけたのだから、
軍服姿の男が立ち上がってくる事は無いだろう。男の後頭部はトイレのタイル張り
の床にめり込むように、半分ほど埋まってしまっていた。

 

「…間一髪ね!一秒遅れても助からなかったわ。」

 ヘーゼルグリーンの瞳を輝かせ、身震いしながら光は立ち上がり、自分のお尻を
ぱんぱんと叩いた。

「光さん、あの男も何とか引っぱりました。あそこに放置してたら、今ごろ蜂の巣
だったね。」

 言いながら秘書は、自分たちが蹴り壊した隣の個室に倒れている江田という男を
指さす。普段の彼女らでは、大の男を瞬時に引っぱる事など出来る筈もないが、
恐るべきはオルゴンの力である。

 軍服男が銃を構えた瞬間、二人は隣の個室の破壊した壁の中に飛び込んだ。
そして素早く彼の後ろに回り込み、不意打ちを食らわせたのである。


 光と秘書の二人は、当初から銃を持つ相手に対してのシュミレーションを行って
いた。そういう相手には一瞬の隙も与えずに、頭部に強烈な打撃を与える、という
事である。撃たせる前に倒してしまわなくてはならないからだ。オルゴンの力があ
るとはいえども、彼女らは生身の身体である。弾丸をかわしきる事など不可能なの
だから。

「それにしても、仲間がいるのもお構いなしに銃撃するなんて、よほどー」

 言いかけた光は、化粧室の大きな鏡に映ったものに驚き言葉を止めた。
床に倒れていた筈の軍服姿の男が、ゆっくりと立ち上がるのが見えたからである。
それで一瞬だけ光は反応するのが遅れてしまった。

 軍服男は驚くべきスピードで近ずくと、分厚いブーツで光の横っ腹に正面蹴りを
放った。

「げふっ…!?」

 さすがの光も両手を床につくほどのダメージを貰ったが、両足を広げて踏ん張り
倒れる事はしなかった。が、男はさらに素早い動きでボディブローを光の腹に食ら
わせる。そのダメージは光の身体が浮き上がるほどで、次々に繰り出される連打に
光は防御するのがやっとであった。

(…この動き、ボクシングだわ。それも本格的な…)


「このっ!」

 すかさず秘書が軍服男に飛びかかるが、男は素早いフットワークで飛び蹴りを
かわす。そして光を圧倒したボクシング流のパンチを繰り出してきた。

「…気を付けてっ!本格的なものよ!」

 が、秘書はそれらをことごとく避けると、逆に強烈なワンツーパンチを軍服男に
叩き込んだ。恐ろしく重いパンチを顔面に入れられた男はぐらつき、さらに秘書の
連打を食らってぐらついてしまう。

 スピードでは秘書の方が軍服男を上回っているようだった。
さらによろめく男にジャンプ一番、秘書のドロップキックが背中に直撃する。
その一瞬に光は助走をつけ男の顔面に強烈な上段蹴りを叩きこむ。

 

          

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 その打撃のダメージは軍服男がその場でくるりと回転するほどで、二度ほど回っ
た時、光は素早く男の顔を両手で掴むと無理やり自分の股間に頭を挟み、プロレス
でいうところのパイルドライバーの態勢に捕える。

 さらにその態勢のまま光は自分の長い両足を男の両腕に挟み込むようにすると、
完全に身動きも受け身も取れない態勢のまま、軍服男をうつぶせ状態で床に叩きつ
けた。床のタイルにひびが入るほどの衝撃である。


「何て硬い頭なんだろ?まるで石みたい。」
「…これで起き上がってきたら、もうお手上げよ。」

 やれやれという表情で光がその場に立ち上がり、両手のこぶしをさすっている
秘書をちらりと見ながら言った。確かにタフな男であったが、これだけ二人の打撃
を浴びまくったのでは立ち上がる事など出来る筈もないだろうと、床にうつぶせで
倒れている軍服男を見つめ光は思った。

 それは奇妙な男だった。
身長はかなり高いが、えらく細っそりとした体格をしている。だが、その見た目の
印象よりもずっと力は強く耐久力もあった。


「…早いとこ、ここを去りましょう。ぐずぐずしてるとまたー」

 と、今度こそ起き上がる事は無いと思われていた軍服男が、両手を腕立て伏せの
ようにしながら体を起こした。

「ちょっ…この人、不死身!?」

 驚きの声を上げる光だったが、ゆっくりと立ち上がった男の顔を見て言葉を止め
る。何故なら軍服男の頭部の皮が、先ほどの光のプロレス技によって大きくずれて
しまっていたからだ。

 例えるなら、被っていた覆面がずれてしまったような…目や鼻の位置が不自然な
位置になっていて、そして何か、今まで嗅いだ事もないような不気味な異臭が男の
身体から漂ってくる。

「わああぁぁああっ!?なんかごめん…!」

 光が恐怖の声と共に謝った瞬間、軍服男は少しもこたえた様子も見せずに両手を
前に出しながら二人に向かってきた。目の位置がずれている事で、軍服男はまとも
に走る事が出来なかったが、それでも彼女らを追いかけようと飛びかかってくる。

「きゃああぁぁ!?怖い怖い!」
「光さん!?どこにー」

 悲鳴と共に逃げ出した光を追いかけるように、秘書も一緒にトイレから走り出る
と、一目散に外へと向かって走り出す。


「…ここは逃げましょう!あの男は何かおかしいわ…車に乗って急いでここを離れ
るのよ!」

 だが、ショッピングセンターの入口を出た光は薄暗い通路を振り返ると、何を
思ったか自分の下着を下げ足から引き抜くと、ドアが開いている入口の端に引っか
け、伸ばしながら反対側の端にも引っかけロープのように張った。

 薄暗い入口では、伸ばした黒い下着は保護色となっているため見えずらい。
つまり光は、追いかけてくる軍服男の足元に即席の”罠”を張ったのである。

「光さん、パンツ伸びすぎ…!」
「……いいの!ほら、来たわよ!」

 

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 ショッピングセンターから離れた二人は、はす向かいにある駐車場へと走る。
と、後ろの方で何かが倒れるような大きな音が聞こえてきた。おそらく足元の罠に
軍服男が引っかかったのだろう。

 ワゴンの傍には真理や博士らが集まっていて、走り出てきた光らを見つけると
不安げな表情で見つめた。

「おい、どうなったんー」
「…急いで車出して!やばい、やばい!!」

   その光の慌てように、みな急いでワゴンに乗り込む。
すぐに車のエンジンをかけ駐車場を出ると、ショッピングセンターから軍服男が飛
びだしてきた。

「光さん、追っ手はどうなったんだ?」
「…二人いたわ!二人目の顔が…叩きのめしたら変形しちゃって…何か少しだけ怖
い事になって…」

「危ない…!」

 車が道路に出た瞬間、軍服男がワゴンの正面に飛びかかろうとして両手を広げた
が運転手の真理は素早くハンドルを切ってそれを躱した。博士はその瞬間、軍服男
の顔面を窓越しに一瞬だけちらりと見た。

 顔面の皮が完全にずれていて、破れかけた部分から、本来の両目がある位置に
真っ赤な色をした二つの目らしき物があった。

「おいおい!少しどころじゃないぞ!?怪人レベルじゃんか!」
「とにかく…!真理、飛ばして!早く町から離れるのよ!」


 光に言われて真理は、暗くなった日光の街を物凄いスピードで駆け抜けてゆく。
幸い車も無く、道路も混雑することなく山道へと入る。いわゆる「いろは坂」と
呼ばれる坂道で、この先、日光市の中心へと続く。

「…きっと追ってくるわよ?あれは普通じゃないわ…。」

 山道へと入ってゆくワゴンの後部座席から、光は後ろを振り向いて言った。
確かに、オルゴンの力を持つ二人がいくつもの超打撃を与えたにも関わらず、立ち
上がり追いかけてきた軍服男。

 おまけに顔の皮が大きくずれてもお構いなしで、普通の状態だと考えるのは少々
無理がある。


「それにしても薫ちゃん、あなたが怖がるなんて珍しいわね?」
「私、ああいうホラー的なものは苦手なのよ…。」

 珍しく震える声で話す光を見て、興味深げに須永理事長が言った。
ワゴンの中の面々はすでに変装が無意味だという事に気がつき、いつもの服装へと
戻っている。あとは「いろは坂」を超え、目的地である緑川町へと向かうだけだっ
たのだが…。

「…この山道で決着をつけるわ。でないと、私たちの目的地が敵にバレてしまう…
いえ、追っ手が他にもいればもうバレているかも知れないけど…」
「来たぞ…!」

 博士が背後を振り向きながら言うと、急カーブを物凄い勢いで曲がってくる車が
見えた。例の黒いランドクルーザーである。

 

 

 

 


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 その車がスピードを上げて真理の運転するワゴンへぐんぐんと迫り、とうとう横
に並んでしまった。運転しているのはやはり軍服姿の男で、横に並んだ瞬間こちら
に顔を向けた。軍服の上着がはだけていて、中に着込んだラガーTシャツが見えて
いる。

「…見て!?あの顔ー」
「ぎゃああぁ!?ラガーマンTシャツだ…!」

 

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 男の顔の皮はさらに真横にずれていて、破れかけた部分から赤い両目が爛々と輝
やいていた。ワゴンの中は悲鳴に包まれパニック状態だったが、一人運転する真理
だけは冷静にハンドルを握り続けている。

「…危ない!みんな伏せてー」

 真理が叫んだと同時に、隣に横ずけしながら走るランドクルーザーの運転席から
男が銃を構え、こちらのワゴンに向けて発砲してきたのだ。幸い助手席の窓ガラス
が割れただけだったが、軍服男は運転しながらさらに銃をこちらに向ける。

「どいてっ!」

 後部座席の涼子が自分の拳銃を構え、隣を並走する車の運転席へと弾丸を数発
撃ち込んだ。その一発が、軍服男の頭付近に命中したのである。

「…さすが射撃の名手!」
「当たった……どうしよ!?」


 だが、運転席の男はまるで堪えた様子も無く今度は手を伸ばし、助手席に座る光
の頭を掴み自分の方へと引っぱった。物凄い力で大きな光の身体を無理やり自分の
車に引きずり込もうとしているのだ。

「…痛い、痛い、痛い!誰か、助けて~!?」

 髪の毛を掴まれているので悲鳴を上げながら暴れる光の身体は、半分ほど隣の車
に引きずり込まれている。後部座席の博士が、慌ててその足を掴もうと身を乗り出
す。

「…尻が出てる!?」
「ちょっ…と薫ちゃん!何でノーパン!?」

 ワゴンの中は須永理事長の笑い声と光の悲鳴で大騒ぎとなったが、その間も真理
はスピードを並走する車に合わせて冷静にハンドルを握っていた。スピードを出し
過ぎても落とし過ぎても、光が車から落ちてしまうからだ。

「この…くそっ!!」

 髪を掴まれたまま、光は真近にある軍服男の不気味な赤い目に、思い切り唾を吐
きかけた。さすがの狂人もこれには堪らず、その赤い目を閉じ頭を振る。その隙を
みて光は掴まれていた髪の毛を振りほどき、ワゴンの方へと皆に引き戻された。

「…だあぁっ!危なかったぁー…」

 光が戻ると、運転席の真理は一瞬だけにやりと笑みを浮かべ、スピードを上げて
ランドクルーザーを引き離しにかかる。

「あっ…そうだ真理、下着の余分持ってる?」
「はっ?」


 急カーブが続く坂道を走るワゴンに後れをとりながらも、軍服男のランドクルー
ザーはなおもスピードを上げ、確実に追いかけてきた。

 そしてまたもランドクルーザーはワゴンの真後ろへとやってくる。
フロントガラスは先ほどの涼子の銃撃で大きくひび割れていて、運転席の男の様子
は窺い知る事は出来ないが、猛スピードで急カーブを追いかけてこれるところを見
ると、諦める気はまるでなさそうだ。

「どうするね?」
「…正直お手上げね。私ら二人がかりでもダメージを与えられない上に、顔があん
な事になっても堪えた様子はない…もう私にはあれが人間とは思えないわね。」

 ワゴンの後部座席から真後ろに迫る軍服男の車を眺め、光はあきれ顔でそう言っ
た。

「なら、運転手が壊せないんだったら車の方を壊せばいいんじゃないかしら?」 
 
 化粧をしながら、優雅に鏡を覗いている須永理事長がぼそりと提案する。
彼女は先ほどの洋服屋で一人買い物を楽しみ、新しい洋服に着替えていた。しかも
猛スピードで山道を曲がり続けるワゴンの中にあって、器用に化粧を施してゆく。

 

 


枯葉_レイモン・ルフェーブル

 

 

「映画なんかで良く見ますでしょ?車のタイヤを銃で撃ち抜くんですの。」
「そんな簡単にはいかないわよ!あんなの映画の話だし…それに弾はあと一発しか
残ってない…私にはそんな腕はないわ。」

 涼子がしかめっ面で自分の拳銃を見ながら言った。
すると、それをするりと手にした須永理事長が、開けた窓に身を乗り出し背後に迫
りつつあるランドクルーザーに向けて拳銃を構える。

  その瞬間、軍服姿の男も運転席から身を乗り出し小型の銃をワゴンに向け数発
撃ち込んできた。

 

「…良美ちゃん、危ないわ!」
「真理さん!スピード落とさないで!」

 ランドクルーザーから向けて放たれる銃撃の中、須長理事長はしっかりと拳銃を構
えたまま、心配する光の言葉を無視して運転席の真理に大きな声で言った。

 

 一発しかない弾丸を、飛び交う軍服男の銃撃の中、冷静に狙いをつけた理事長は引
き金を引いた。

 

 

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「…っ!?」

 弾丸は見事タイヤに命中し、猛スピードで走っていた軍服男のランドクルーザー
はパンクの影響でまともに走る事は出来なくなり、ジグザグに蛇行しながら最後は
コンクリの壁に激しく激突して止まった。まるで映画のワンシーンのように。


「…凄い!一発で仕留めた!」
「うっそ……!?」

 手放しで喜ぶ秘書の隣で、涼子は唖然としながら数十メートル後ろの壁に激突し
た黒い車を見つめている。止まった車から軍服姿の男が出てくる気配はない。それ
を見て、真理の運転するワゴンは静かに路肩に停車する。

 須永理事長は蛇のようにするりとシートに戻り、唖然としたままの涼子に拳銃を
返すと、肩を押さえてシートに崩れ込んでしまった。押さえる手の隙間から赤い血
が流れる。

「血が…!?」
「良美ちゃん…!あなた撃たれたのね!?」
「……かすっちゃっただけ。でも、ちょっと痛いわね…。」

 いつものようににこやかに笑う須永理事長だったが、額から汗が噴き出してきて
、かたかたと震えがきている。

「大丈夫、すぐに治すわ。」
「…薫ちゃんごめん、私のミスよ。私がカードを使ったから…足がついたのね…」
「いいのよ…。」

 光は理事長の肩口に布を当て強く抑えると、すぐにコンパクトを取り出し片手で
薬の調合を始めた。オルゴンの力と並び、間宮薫という存在が魔女と呼ばれる所以
となった神秘の細胞再生薬である。

 増殖する活性細胞が、細胞と細胞を繋げていき肉体を再生するのだ。
それをいくつかの菌と薬剤の調合で行う、彼女だけのオリジナルブレンドである。

 完全とまではいかないが、時として人の命すら取り戻す力がある秘密の再生薬…
傷を治す事など造作もないことだった。弾丸が肩口にかすり、かなり出血はしたが
光の処置で良美の傷はみるみるうちに塞がり、血の気の引いていた顔色も徐々に戻
ってゆく。 

「薫ちゃん、これでミスの借りは返したわよ?」
「えっ?ああ、そうね……お馬鹿。でも、ありがと。」

 理事長は自分のミスで追っ手に見つかってしまったという汚点を自らの手で晴ら
したのだ。


「…見て!車がー」

 壁に激突したままの車から突如火の手があがる。
ガソリンが激しく燃え、ランドクルーザーはいっきに火に包まれた。これではさす
がの軍服男も無事では済まないだろうと、皆は思った。


「…しかたない事よ。あの男は私たちを全員抹殺するつもりだったんだから。こう
でもしなければ、私たちが逆にやられていたのよ。」

 燃える車を静かに見つめながら、ワゴンはゆっくりと走り出す。
目的地である緑川町は坂を下りた日光市街地の、そのさらに山奥にあるのだ。敵の
追っ手がどれほど待ち構えているのかが分からない以上、一刻も早く目的の町へと
到着しなければならない。

 そして、その目的の緑川町まで、あと十数キロというところまでやって来たので
ある。


(続く…)