ザ・怪奇ブログ

怪奇小説・絵画・怪奇の世界!

虹色の丘

虹色の丘 21(最終話)

小さなライトの明かりを頼りに、私たちは暗い洞内をあてもなく走る。後ろを振り返る余裕も、立ち止まる余裕も私たちにはなかったが、言葉を交わす事は出来た。 「…チコあなたの家って、何やってるとこなの!?」 隣を走る智佳子に私は尋ねる。彼女は見事に鉄…

虹色の丘 20

狭い洞窟の通路を抜けたところに、木で造られた古めかしい柵があった。私は柵の所まで行くとその先の闇を覗きこむ。これまでよりもさらに暗い暗黒がそこにあった。ライトを当ててもその先が見えないのは、そこが大きなホールのような洞窟になっているからだ…

虹色の丘 19

入口付近の狭く真っ暗な穴を進む私たちだったが、ほどなくして広く作りもしっかりとした坑道へと出た。 岩盤を削り、きちんと整えられたその坑道内は水が滴り、私たちのライトに反射してキラキラと光る。もう何十年も人の手を離れた洞内は、あちこちに植物や…

虹色の丘 18

暗い闇の中を走るワゴンの中で、私たちは急ぎお互いの情報を整理した。取り急ぎ優先することは、消えた智佳子を見つける事であったが、それについて裕は炭鉱跡に向かったのではないか?と。それには私も賛成した。なぜか分からないが、そんな確信があったの…

虹色の丘 17

メガネの母親は、私たちがやってきた時ちょうど夕食を済ませたところだった。こんな時間に私たちが現れた事に驚いていたが、快く中に通してくれた。しばらく前に見た時よりは、メガネの母親は元気そうに見える…。久しぶりの来客に、少しだけ嬉しそうにお茶の…

虹色の丘 16

この間は行かなかった小高い丘のふもとにワゴンをとめて、私たちは歩いて上まで登った。丘は背丈の長い草が生い茂り、歩き難かったが夜空の星が明るいのでなんとか丘の頂上までやってきた。春の夜風が心地よく私たちの顔を撫でていき、草のさらさらという音…

虹色の丘 15

夕食もかたずけ終わり、私はインスタントのコーヒーを飲むためお湯を沸かしていた。なにはともあれコーヒーでも一杯飲みたい気分だった。 お盆にのせ部屋に戻ると、各自バラバラにくつろいでいる。と、いっても本当にくつろいでいる者は一人もなく、それぞれ…

虹色の丘 14

私と裕がペンションに戻るとすでに日は落ちかけていた。町からかなり外れた山の、スロープの中腹にそのペンションはあった。もちろん泊り客は私たちだけで、お客が来るなんてずいぶん久しぶりの事だ、と宿主は言った。 部屋に戻ると和美と智佳子が夕食の支度…

虹色の丘 13

町まであと少しの峠にある食堂に停車した私たちは、先に到着していた大樹と合流した。彼はクリーニング店のワゴン車でやってきていたが、病院に入院していたと聞いていた智佳子が私たちと一緒なのを見て驚いた。私が大樹にこれまでの出来事を説明している間…

虹色の丘 12

山間の自動車道を智佳子も加え、かつての炭鉱町に向けて走る。見通しの良い道はほとんどすれ違う車もなく、快適なドライブだった。 それもそのはず、炭鉱が閉鎖されるとすぐに住民達は比較的大きな隣町や市内の方にどんどん移り住んでいったのだから、今も町…

虹色の丘 11

私は次の日、裕のプランを聞いてあぜんとした。なんと、病院から一日だけ智佳子を連れ出そうというのである。もちろん連れ出すことなど出来るはずもない。いつ発作がおきるとも限らないのだから…。 「でも、やらなくちゃならないと思うよ。でないと、このま…

虹色の丘 10

あの夜、私は和美に送ってもらいなんとか自分のマンションに戻ったが、次の日病院には行かなかった。おそらく病院では対処できないと判断したからだ。 そのかわりに私は、あるアパートを訪ねた。街の中だが、ビルの陰に隠れてひっそりと建つそのアパートは、…

虹色の丘 9

それから数日の私の行動は、めまぐるしいほど忙しいものだった。近くに住んでいた和美とはちょいちょい顔を合わせていたが、それはおもに智佳子のお見舞いであった。 あれ以降、智佳子の様子は日増しに悪くなっていった。顔色もさることながら食事にはほとん…

虹色の丘 8

智佳子の病室は三階の日当たりも良い場所にあった。入院して二日ほど経っていたが、顔色はあまり変わっていなかった。部屋の中は何もなく、べットの脇には点滴が置かれている。智佳子は眠っていた。 今、部屋には誰もいなかったが、私たち三人は静かに智佳子…

虹色の丘 7

日差しのたっぷり入るカフェで、結子はコーヒーを飲んで時間をつぶしていた。大きなガラスの窓ぎわに座ったのは、やってくる友達を見つけるためである。腕時計の時刻は午前の11時を指していた。まだお昼には早い時間だった。 あの葬儀から一週間ほど経って…

虹色の丘 6

葬儀が終わり一週間、和美は普段の生活に戻っていた。仕事がら人付き合いは多い和美だったが、友達というものは作らなかった。昔の仲間には、仕事は飲食店だと言って嘘をついたが、和美は「キャバ嬢」だった。店ではそれなりに名の知れた和美だが、もちろん…

虹色の丘 5

メガネの家から車で僅か五分ほどのところに、それはあった。高さ百メートルもない裏山のふもと、見渡す限りの草原にぽつんと立つ一本の木がそれだ。 大きな古木で、枝があちこちににょきにょきと伸びている。かなり朽ちてはいるが、その木は昔とほとんど変わ…

虹色の丘 4

この二十年近くの間、智佳子は人形そのものだった。家の中で発言権のない母親に代わり、厳格な祖母に教育を受けてきたのだ。もともと名家の家柄であったが、跡取りの男の子が生まれず、一人娘である智佳子を母親は祖母に預けたのである。 母親とこの炭鉱町で…

虹色の丘 3

具体的には、「メガネ」だけしか面影のない友達の遺影を見つめ、私はうとうとしながら、お坊さんのお経を聞いていた。目を閉じると、二十年近く前の子供時代の私が思い出される…。 私は転校生だった。このメンバーの中では一番最後に仲間に入れてもらった記…

虹色の丘 2

…目の前には、まっくらな闇があった。それが黒雲のように渦を巻いていて、その闇の中に何かがうごめいていた。私はひっしにもがいてそこから逃げようとするけど、なぜか足が動かなかった。僅かな時間、そんな夢を見ていたような気がする… 「…大丈夫?」 ほん…

虹色の丘 1

その奇妙な旅行は、一通の手紙から始まった。 白い小さな封筒に入った手紙には、私の小学校時代のクラスメートである男の子の葬儀への招待状だった。 二十年近く前の、今ではまったく関わりのない友達の、しかも学校はすでに廃校になっており、山間の町はす…