ザ・怪奇ブログ

怪奇小説・絵画・怪奇の世界!

マテリアル

マテリアル 22最終話

暗く湿った教会の中で、その白い物体は小山のような巨体を揺らしながら、水辺から姿を現した。 それを表現するとすれば、やはり蛸と言えるだろうか?だがその足は、大木の幹のように太く、まるで巨大なヒルのように伸びたりちじんだりを繰り返した。 その小…

マテリアル 21話

妖しく輝く間宮先生の瞳を見つめて、私は身体が硬直してしまったような気がした。さながら蛇に睨まれた蛙のように。 その時、私にはようやく分かったことがある。須永先生のアトリエで、絵ではあったが初めて理事長の顔とへーゼル・グリーンの目を見た時に感…

マテリアル 20話

開けっぱなしの扉を抜けると、私には見覚えのある場所に出た。暗くカビ臭い通路は、古いレンガや岩で作られている。そこは私や奈々子が迷い込んだ例の奇妙な壁画のある場所であった。 こんなに寮の近くに入口があったことに驚いたが、私はまるで何かに憑かれ…

マテリアル 19話

どれくらい眠っただろう?目を覚ました私は、真理の部屋のべッドの上にいた。どうやら泣き疲れて眠ってしまったようだ。 「ああ、やっと起きたね。」 そばに奈々子が立っていて、こちらを覗きこんでいる。 「…私どのくらい寝たの?」「ええと…一時間くらいじ…

マテリアル 18話

窓からもれる月明かりに照らされた私へと、何やらぶつぶつと呟きながらゆっくりと真理は近ずいてくる。 その手には、時折窓の明かりに反射してギラリと光る、豪華な装飾を施こされたナイフを持って…。 「…あれほど言ったのに…どうして…!」 涙を流しながら、…

マテリアル 17話

診療所のべッドで点滴を受けて眠る、黒いドレス姿の女性を見つめながら警部補は時計の針を眺めた。時間は午後二十一時を過ぎたところである。 警部補は傷つき疲れた表情で眠る娘を見て、ひどく悪い予感めいたものを感じていた。おそらくこの娘が例の探偵の一…

マテリアル 16話

ブルクハルト芸術大学の敷地の外で、警部補は普段よりも学園の明かりが少ない事に気がついた。いつもなら見える部屋の明かりがほとんどついていない。おかげで、夕日がすっかりと沈んだ辺りは真っ暗闇である。 二人組みの探偵らしき人物たちの家は、小高い丘…

マテリアル 14・15話

耳を塞いでも直接頭の中に響いてくるような、激しい騒音のようなものに襲われながら、博士は壁の不気味な絵や文字を読み取ろうとしていた。だが、それを妨げるほどの、激しい敵意のような雑音ないしは振動のようなものを博士は感じた。 「…早紀君、ほら、い…

マテリアル 13話

授業が始まる少し前に、私は書きかけのキャンバスと絵具を自分の机に準備しながら、やってくる生徒たちを緊張の面持ちで待っていた。数人の生徒が教室に入ってきた頃、奈々子もあくびをしながらやってきた。 奈々子は私の隣の席に腰を下ろすと、ひとり言のよ…

マテリアル 12話

私は部屋に戻ると、先に戻っていた奈々子が待っていた。今日はびっくりするほど色々な事が起こった一日で、すっかり疲れていた私だが、今日はもう一つ大事なことがある。 昼間会った例の博士を、この学園の中に入れるという仕事である。まさか、理事長が亡く…

マテリアル 11話

タクシーで学園に戻ってくると、いつもは静かな玄関広場が赤々とした光に照らされていた。 パトカーが何台も止まっていて、救急車も一台待機していた。何事か起こったのだろうか? タクシーの窓から外を眺めると、救急車の後ろのドアが開いていて、無人の担…

マテリアル 10話

狭い事務所の中は、異常な数の本でさらに狭くなっていた。壁ぎわは全て本棚になっていて、見た事も聞いたこともない本で埋め尽くされている。 本の山の中に、唯一ソファーと小さなテーブルが一つ置いてある、というような感じであった。もちろんテーブルにも…

マテリアル 9話

翌日の日曜、私は先に学園を出た奈々子と町で合流する予定でいた。目を覚ました時には、奈々子はすでに私の部屋にはいなかったが、昨夜のうちにどこで会うかは打ち合わせをしている。 この学園は基本的には土日の活動は自由であり、家に帰るも町に出るのも自…

マテリアル  8話

食堂を出て人気のない廊下を進み、ある大きな窓のある場所まで来ると、真理は突然立ち止まった。 ここに来てから始めて見せる真理の真剣な表情に、私は緊張しながらも彼女の言葉を待った。 「…あなたはここに来て時間が浅いから分からないと思うけど…。」 電…

マテリアル 7話

完全に日が落ちた中庭は、ほとんど真っ暗闇であった。その闇の中で、私と奈々子という女性徒は身を隠すようにして話していた。彼女は時折、辺りをきょろきょろと見渡しながら怯えるように語る。 …一体何に怯えているのだろう? 奈々子が言うには、行方不明に…

マテリアル 6話

数日が経ち、本格的に絵の講義を受け始めた私は充実した日々を過ごしていた。体調は本調子とはいえなかったが、もともとそれほど健康的ではない私は、ここでの日々の方が絵の勉強が出来るのでむしろ調子が良かった。 須永先生の講義は多少無口なほうではあっ…

マテリアル 5話

前回までのあらすじ・・・ ブルクハルト芸術大学へとやってきた沙織は、その日女性徒が転落するという事故に遭遇した。同じ頃、学園内の生徒が行方不明となる事件が起きていたが、足取りは不明であった。沙織は学園内を見学中、不可解な現象に遭遇し倒れてしまう…

マテリアル 4話

その部屋は美術室の一つだったが、おもにこの女性、須永講師のアトリエであった。中にあるのは彼女の作品ばかりで、たくさんのキャンバスに描かれた絵が置いてある。私はしばらくその部屋の絵を鑑賞していた。 「…ここにあるのは、ほとんどの絵がまだ完成し…

マテリアル 3話

目を覚ますと、明るい日差しがたっぷりと飛び込んできた。小さなべッドから身を起こすと、沙織は見知らぬ部屋にいることに気ずく。そして広くない部屋の、洗面所の前に一人の女性が立っていて、私が起きた事に気がつくと、こちらに向き直って話かけてきた。 …

マテリアル 2話

響き渡る女性の悲鳴と、何かがぶつかる音に私は暗闇の中で震えあがった。そばには先ほど私にぶつかり、荷物を拾ってくれた女性徒が同じく悲鳴のする方向を驚きのまなざしで眺めている。 「…行ってみましょう!あなた立てる?」 背の低い女性徒は、私の腕を掴…

マテリアル 1話

沙織が駅に着いたのはすっかり日も落ちた後だった。念願の大学の寮生活なのだが、四月の前にちょっとした病気にかかってしまい同じ学年の連中とは一ヵ月も遅くの大学生活であった。小さいころから喘息の症状があった私は、入学を前にこじらせてしまったのだ…