ザ・怪奇ブログ

怪奇小説・絵画・怪奇の世界!

2019-12-04から1日間の記事一覧

灰色のシュプール 21(最終話)

日が沈む前に、私たちは双子岳ロッジのロビーおよび一階部分を自由に行き来出来るようにした。地下の倉庫から運び出した食塩の量はかなりの物で、ダンボールに三箱分はあった。 私たちは食塩をロッジのいたるところに散布して、灰色の物体をひとまず追い出す…

灰色のシュプール 20

ロビーを駆けだしたコジと科学者の二人が、あっという間にX印を越えると、その瞬間あちらこちらから灰色の物体が現れ二人へと迫ってきた。 「…危ない!来たぞ!」 ぼうずの男が声をかけると、コジは両手に握る塩を前方の化物に向かって投げつけ、科学者も手…

灰色のシュプール 19

少女のどろんとした灰色の目は、傍にいる私を見てはいなかった。ただ中空を見つめ、どこか別の次元を覗くかのようにぼんやりと床に座りこんでいる。そして何かぶつぶつと呟きながら、抱きついて押さえこんでいる私を振り切ってその場から立ちあがろうとして…

灰色のシュプール 18

日が昇り雪山に朝がやってきた。昨日までの吹雪が嘘のように晴れ、太陽の日差しがロッジの中へと差し込んでくる。幾分ロビーの中は強い日差しのおかげで寒さは感じなくなっていたが、依然として私たちはロビーの隅で静かに固まっていた。 私はまたもソファー…

灰色のシュプール 17

大きな窓ガラスの外は、またしても強い吹雪に見舞われていた。穴のあいた部分から粉雪が入り込み、暖まったロビー内の気温を僅かばかり下げている。 私は怯える少女を抱きしめながら、あの灰色の物体が立ち去ったロビーの奥を眺めていた。先ほどの恐ろしい光…

灰色のシュプール 16

静寂を破ったのは一人の防護服のマシンガンだったが、それは一瞬の内に掻き消された。 激しい閃光と破裂音は、そのほとんどが灰色の物体に飲み込まれるように消え、粘着性の身体に防護服の男をすっぽりと包むとロビーの天井近くまで伸び上がった。狭いロビー…

灰色のシュプール 15

隊長と呼ばれた一人だけ色の違う防護服を着た男は、案内する防護服の後について隣のロビーへと向かった。ロビーとレストランは繋がっており、ほんの数歩で到着する。 「なんだこれは…!?」 ロビーの光景を見て、隊長と呼ばれる男は声をあげる。端のソファー…

灰色のシュプール 14

けして広いものではなかったロッジのロビーだったが、これまでは私たち数人しかいない状態が続き、ずいぶん広く感じられたものだった。だが、今は先ほどまでと違い、ロビーの中は明るい照明が取り付けられ大勢の人間がうろつき回っていた。 やって来た陸軍に…

灰色のシュプール 13

私たちは帰り仕度をすませた状態で、大きなロビーの窓の外を眺めながら、救助隊が来るのを今か今かと待っていた。今のところ強かった吹雪も多少は収まり、ちらちらと雪が落ちている程度である。 持ち込んだ荷物は二階の小部屋に置いてあるのを、ミッキーとコ…

灰色のシュプール 12

私とぼうずの男が持ち帰った情報は、ロッジに残った者たち全員をさらに困惑させることになった。 それはそうだろう。雪崩の原因は自然現象であるとしても、そこから宇宙船が見つかったのである。おまけにその搭乗者も、私たちはこの目で見たのだから…。今夜…

灰色のシュプール 11

薄暗いロビーに姿を見せた亜衣子と顔に傷のある男は、それぞれ別の位置からストーブの近くにいるミッキーらを、その場にじっと黙りながら見つめていた。 亜衣子はロビーの左側の出入り口付近、顔に傷のある男は二階への階段の途中に、まるで動く様子もなく。…

灰色のシュプール 10

さっきまでの吹雪が嘘のように、澄んだ星空が広がっていた。膝まで雪に埋まりながら道路の斜面を下ってゆく私は、その美しい夜空を眺めながら歩いてゆく。 私の頭上には、冬の夜空を代表する星座と大きな星がいくつもきらめいていて、時折流星がいくつも流れ…

灰色のシュプール 9

二階へと続く階段を上がって行った亜衣子は、ロビーで茫然と見つめる私たちからはもう見えなくなっていたが、誰一人その場を動けなかった。まるで、蛇に睨まれた蛙のように。 「…おい、あれ亜衣子だよな…?」 コジの言葉にわれに返った私は、ロビーの中を見…

灰色のシュプール 8

私とロビーで別れたあと、少女は二階の宿泊場所へと向かったそうだ。二階には数人の泊り客がいて、少女は顔に傷のある男に言われた通りに、鍵のかかっていない部屋を探して回った。毎度の事ではあるが、こういうレジャー施設で人は貴重品を保管する事に気を…

灰色のシュプール 7

ぼうずの男に捕まった小さな少女は、ロビーに集まった私たち全員を一人一人睨むように眺めていた。 だいぶ落ち着いてきたのか、先ほどのように逃げ出すことはないが、私たちに心は許していなかった。 そこで、ある程度年齢が離れた吉井さんが少女のところへ…

灰色のシュプール 6

ロビーを抜けて、一階の奥にある男性用化粧室と書かれたトイレの前に集まった私たち全員だったが、入口で僅かの間沈黙していた。 というのも、女性陣は男性用のトイレに入るということ自体抵抗がある訳だが、今は非常事態なのでそうも言っていられない。 「…